Elysium

ネタ帳

A.B.O.G

華やかに幕を上げたブルマの誕生日パーティーは予想外のゲストによってとんでもない混乱を極めた。
けれど終わり良ければすべて良し。今、ブルマはとても幸せな気分に浸っていた。

「アンタが私の為に誰かに腹を立てて一生懸命戦ってくれたなんて…初めてよね。うふふ♪」
それはお前が知らないだけで正しくは違う。他にも同じような場面があった。
ベジータは言いそうになったが、言うとまた面倒なので絶対に言わないでおこうと思った。
「それにしても悟飯くんとビーデルさんに子供が出来てたなんてビックリよね!でも結婚してるんだから当然と言えば当然かな?あの孫くんですら子供が出来たんだもん。」
ブルマにとってはカカロットが子供を作った事の方が悟飯が子供を作ったことよりも意外だったらしい。
わけがわからんとベジータは疑問に思う。ブルマが意外に思うことの方が逆に意外だと思うからだ。
「あいつも男なんだ。目の前に好みの女が現れれば抱きたいと思う事が一度や二度有ってもおかしくないだろ」
まあ、実際に行動を起こすかは別の話だが……。
勇気も必要ではあるし。
ベジータは初めてブルマと体を重ねた時の事を思い出して頬を染めた。
本当に…あの頃は勇気がいったものだ。
「あら、可愛い。その顔好きよ」
「……。」
「きっと私の事が好みだって言っちゃった事が恥ずかしいのね」
「ちがっ……。」
「違うの?」
「〜〜〜」
どうしてこの女はいつまで経ってもあの頃のように自分の都合の良いように物事を解釈するのか。
それをハッキリと否定出来ない自分が存在するのも少し不愉快だ。
「もう〜折角良い雰囲気だったのにまたそうやって剥れるんだから」
クスクスと笑うブルマは今年で45歳になった。
本人はパーティーの最中38歳と言い切っていたがもっとサバを読んでも皆にはわからないのではないか?
素直にそう思う。いつまで経ってもブルマはベジータにとって若い時のままだ。
心も、そして身体も…。
「あらやだ。盛り上がってきちゃった?」
「誘ったのはお前だろう?」
「ふふ、そうかもね」
瞼を閉じたブルマの唇にそっと口付ける。

子供か…
ブルマにはまだ産む力があるだろうか?
見た目は若くとも内まで同じとは限らない。
でも…。抑え切れそうにないとベジータは自分の体の変化を感じそう思った。


Happy Birthday Bulma...!


おわり


ーーーーーーーーーー
神と神の続編が放映予定!?
楽しみですね!本当楽しみ!
次はベジータがゴッドになって欲しいな…。

A.B.O.G=After Battle of Godsの略

サラブレッド

それはトランクスに悟天という友達が出来て暫く経ったある日の事。

「うわぁぁああああん!!」
トランクスの泣き声が建物内に響き渡った。
重力室でトレーニングをしていたベジータは息子の乱れた気に気付き修行を中断し、
母親と一緒に台所でおやつのクッキーを焼いていたブルマは危うくオーブンの鉄板をひっくり返しそうになった。
ゆ、揺れている……建物が。
「な、何なの!?」
「トランクスちゃんが泣いてるみたいねぇ〜」
「そんなことわかってるわよ!」
相変わらずマイペースな物言いをする母親に調理を任せ、ブルマは鳴き声の発生源ーートランクスの部屋ーーへと急いだ。

トランクスの部屋に着くとそこには既にベジータの姿があった。
「どうしたの?何があったの?」
「わからん」
とりあえず泣き止むように言ったんだが…と渋い顔をするベジータだったがあまり効果は無かったらしい。
建物の揺れは収まっているがトランクスはまだ泣き続けている。
「ほらほらトランクス、いらっしゃい。どうしたの?」
泣き喚く我が子を抱き上げ、よしよしと宥めながら問題の原因となるものが何なのか、探りを入れるべく彼に問いかけた。
しかし当の本人は泣き止むどころかブルマの手から逃れようと必死にもがき更なる大声を出し始めた。
「はなしてぇぇ〜!!!」
「キャッ」
子供とはいえトランクスはサイヤ人とのハーフ。
振り上げられた拳が自分の顎を打ったと同時に強烈な刺激が頭にまで達した。と、ブルマは感じた。
あまりの衝撃にどさりと我が子を床に落としてしまう。
「ごめんっトランクス。だいじょ…ぶ?」
こんな時でも自身よりもトランクスの身を案じてしまうのは、やはり母親だからだろうか?
薄れゆく意識の中でブルマはそう思わずにはいられなかった。

ブルマが意識を取り戻したのは、その日の夜遅く、普段ならそろそろ寝ようかなと布団に潜り込むような時間帯だった。
ブルマの傍には椅子に腰掛けるベジータがいた。
気を失う前に見た戦闘服の彼ではなく、一日の汚れを洗い流し、小綺麗な私服を身に纏った彼はあの後ずっと彼女の傍で付き添っていたらしい。
「気が付いたか」
「うん…。」
心配そうに彼女を覗き込む彼に頷き、ふふっと笑いを漏らした。
「何だ」
「別に。いつもとは立場が逆だな〜ってちょっと可笑しくなっただけ」
「…。」
少しだけ頬を染めてベジータは彼女から視線を逸らした。
「アンタもこれで少しは私の気持ちがわかったんじゃない?」
「ほざけ。まあ何にしろ元気そうで何よりだ」
「まだちょっと顎が痛いけどね…。」
「…。」
顎が痛くてもよく回る舌だとベジータは呆れたように溜息を吐いた。
しかしはっと何かに気付いたように持っていたものに視線を落とした。
「一応…原因はわかった。」
「原因?」
何の?と聞き返すブルマにベジータは更に呆れる思いだった。
「トランクスだ。泣いていただろう。忘れたのか?」
「ああ…ごめん、忘れてたかも」
「……。まあいい。それで泣いていた原因だが…」
ベジータは、ブルマの母親がトランクスから聞き出した話を、彼女から聞いた通りに余すことなく説明した。


遡るはその日の前日、息子たちと一緒に都に買い物に出て来ていたチチは悟天にせがまれてブルマの家を訪れていた。
チチと悟飯はブルマと話をし、悟天はトランクスの部屋で彼と遊んでいた。
「ねえ、トランクスくん。ぼく、こんどから、おかあさんにナイショでトランクスくんにあいにくるね」
悟天が言ったそれは本当に唐突なものだった。
わけがわからないトランクスは思わず、えっ?と問い返した。
「なんでぇ?!」
前にママが言っていた。皆にナイショでコソコソするのは悪いことだと…
悟天は悪い子になってしまったのだろうか?そんな思いがトランクスの頭の中を駆け巡る。でもどうして…
「だっておかあさんがさっきいってたんだ。トランクスくんはサラブレッドだから、ぼくみたいにヒマじゃないんだって。だからあんまりおしかけちゃだめだって…」
「???……さらぶれっど???」
さらぶれっどってなんだろう?
そんなトランクスの疑問に答えることもなくーー実はこの時の悟天もサラブレッドの意味をよく理解していなかったーー悟天は続ける。
「トランクスくん、ぼくたちずっとともだちだよね?ぼくとまたあそんでくれるよね?!」
「も、もちろんだよ!またきてよ!!」
トランクスはよくわからないままそう答え頷いた。
その答えに満足した悟天はわーいと喜んで、気になっていた玩具を指差した。
「ねえ!こっちのおもちゃはどうやってあそぶの?」
「あ、えっと、それは…」
遊び方を説明しながら、難しい事は後でママかお祖父ちゃんにでも聞こうと思った。

それから、夕方にはチチや悟天たちはパオズ山に帰って行き、ブルマやブルマの母親は夕食の準備をし始めた。
残されたトランクスはすぐにブリーフ博士がいる彼の研究所を訪れた。
研究所と言っても博士の個人的な研究所は家と同じ敷地内にあるので歩いてもすぐそこだ。
「おじいちゃ〜ん」
「おや、トランクス。どうしたんだい?」
まだ幼い彼の孫息子は普段この研究所に一人でやってくる事はない。
そんな彼が他の誰も連れずに自分に会いにきたのだから博士は嬉しく思うと同時にちょっぴり驚いたりもした。
もしかしてもう科学に目覚めたとか?
そういえばブルマは五歳になる頃には既に機械を弄って遊んでいた。
懐かしい光景を思い出し、彼の孫もそうなったら本当に嬉しいよなぁなんて思う。
しかし…彼の思いとは裏腹にトランクスは唯、自分が抱えた疑問を解きに来ていただけだった。
「ねえおじいちゃん、さらぶれっどってなに?」
「へ…?」
「さらぶれっど!」
……サラブレッドと言えばそりゃあ…
「馬の品種の一つじゃなあ」
でもどうしてそんな事をわざわざ?博士が聞こうとする間もなく次の質問が飛んでくる。
「うまって?」
「おや、トランクスはまだ見たことがなかったのかい?馬ってのは動物じゃよ」
今度、お祖父ちゃんと動物園にでも行くかい?
などと博士はのんびりと答えた。
しかしトランクスには動物園の事なんか今はどうでもよかった。
「どうぶつ…。」
その顔は既に真っ青だ。
「そういえば、わしの知り合いに競走馬の繁殖をしている人がいるんだが、その人のところに行けば動物園に行かなくともカッコイイ馬が沢山見られるんだがな……って、あれ?トランクス?」
いつの間に…。
既にいなくなっていたトランクスを不思議に思い博士は暫く首を傾げていたが、まあいいかと研究に戻った。

博士から衝撃の事実を聞き出したトランクスは悩んでいた。
どうして悟天のママは自分のことをサラブレッドだと言ったのだろう?
サラブレッドは馬で、馬は動物。という事はトランクスは動物だったのだろうか?
そんなことを思いながら洗面所の鏡の前に立つ。
「ちがう…」
どう見ても自分は両親と同じ人間の姿をしている。
でもそこでふと、両親は大人である事に気付いた。
「も、もしかして…!」
今は子供だから人間の姿をしてるだけで大人になったら自分は馬になってしまうのだろうか?
「そ、そんな…」
でもそうだとしたら?
段々と馬について気になりだした。
馬ってどんな動物なんだろう?かっこいいのかな?それともかっこ悪い?
トランクスは馬が載っている本を探そうと思った。
でもそんな本持ってたかな?わからない。とりあえず自分の部屋を探してみた。
「ない…」
動物が載っている本は何冊か見つけたけど、その殆どが絵本で、犬や猫、豚や羊、キツネ、狼などは有った。
でも肝心の馬が見当たらない。どうしたものかと思う。
「そうだ!」
確か、ここには貴重な本が沢山あるから入ってはいけないと言われた部屋があった。
もしかしたらあそこになら馬の載ってる本があるかもしれない。
トランクスはそう考え、目的の場所に向かった。

図書室の前まで来たトランクスは他に誰も居ないか辺りを見回した。
今そこには誰も居ない。よし!と思い、ドアの取っ手に手を掛けようとした。
だけど…なんとなく、本当にここに入っていいのかなと躊躇した。
悪戯をするわけじゃない。でも、今、自分はコソコソしている。
悟天がいた時に思い出したように、今もトランクスはブルマが以前言っていたことを思い出していた。
「……。」
両親のどちらかにちゃんと言ってから入ろうか?でも何て言ったらいいんだろう?
大人になったらどんな姿になるか知りたいから馬が載ってる本を見せて?とでも言おうか?
……。そんなこと言えない。
これもなんとなくだが、なんとなく馬になるなんて言ったらガッカリされるような気がした。
だって両親はちゃんとした人間なんだから。
「おい、そんな所で何をしている?」
そこへトレーニングを終えて台所の冷蔵庫のある場所に向かっていたベジータが通り掛かって彼に話し掛けた。
その声にトランクスの肩がビクンと揺れた。
「トイレ…」
咄嗟に出たトランクスの言い訳にベジータは呆れたように口を開く。
「トイレは通路の向こうだ。まだ覚えていないのか?」
俺の血を引いているのに案外物覚えが悪いんだなと言いながら彼は去って行く。
「……。」
頭が悪いかもと思われたかもしれない…。
でも自分のもしかしたらの正体を知られるよりはずっといいような気がした。
でもこれで今日はこの部屋に侵入するのはやめた方がいいかもしれないとトランクスは悟った。
「明日にしよう…」

そうして、その日の翌日となった今日、望みの物を図書室で見つけたトランクスは、それを自分の部屋に持ち込んだ。
「うま…うま…うま……」
動物図鑑は思っていたより分厚かった。
途中何度も他の動物の写真に目を奪われ、何度、本来の目的を忘れそうになったことか。
特に虎やライオンといったカッコイイ動物のページでは時間も忘れてしまうくらい夢中になった。そして…
「あった…!」
問題の馬のページに辿り着いた。
しかし、想像していたカッコイイ動物には思えなかった。
顔が長く、四つ足で模様は種類によって色々有るらしい。
見る人が見ればその良さがわかるのかもしれないがトランクスには全くわからなかった。
「これになっちゃうの……?」
そこにはサラブレッドの様々な表情なども載っていた。
トランクスはその一つ、馬の怒っている表情を見て身震いした。
耳を後ろに倒し、白目を剥くその動物はカメラに向かって威嚇しているのか、とても怖い表情をしていた。
「こんなのヤダ…ヤダよ……。」
トランクスのその瞳からは大量の涙が溢れ出した。
「うわぁぁああああん!!」
そして冒頭のシーンへと続くのだった。


「そう。そんなことが……。」
ブルマが倒れてからベジータは彼女の傍から離れることが出来ず、事の真相を探るのをブルマの母親に委ねた。
ブルマの母親はそれに気前良く応じ、直ぐにトランクスから真相を聞き出した。
そしてそれをベジータに話し、ベジータはそれをそのままブルマに伝えた。
ブルマの手にはベジータから渡されたトランクスが持ち出した動物図鑑が握られている。
それをペラペラと捲り馬のページを開くと暫くそれを見遣りブルマは口を開く。
サラブレッドかぁ…チチさん、きっと気を使ってくれたのね。」
本当にそうだろうか?ブルマの言葉にベジータは疑問を感じずにはいられなかった。
正直、ベジータはある意味トランクス以上に混乱しているかもしれない。
あれーーチチのことーーも口喧しい女ではあるが、いつも能天気で何を考えているかわからない下級戦士の妻にしては良くできた人間だと思っていた。
それに気付いたのは自分も子供を持ったことで悟飯がどれだけ子供にしては成熟した物の考え方をしているかわかったからだ。
あの阿呆ーー悟空のことーーだけの力ではああは育てられないだろう。
と素直にベジータはそう思う。
それが…トランクスを馬に例えただと!?
ふざけるのも大概にしろと言いたい。
「あいつのどこが馬なんだ?目が腐ってるとしか思えん」
ベジータは思ったままを口にして、チッと舌打ちした。
それに反応したかのようにバッと顔を上げブルマはえっ!?と言いながら彼を見つめる。
「なんだ」
「なんだって……本気?」
「だから何がだ?」
「本気なのね…」
ブルマは重々しく溜息を吐いた。
父親がこれじゃ息子もそりゃあ取り乱すわ…何の根拠も無いがブルマにはそう感じられた。
「あのねぇ…いいわ、結論だけ話すけど、サラブレッドっていうのは確かに馬の品種の一つではあるけど、地球ではもう一つ意味があるのよ」
「もう一つ…」
それは知らなかった。続けろとベジータは目だけで先を促した。
「つまり、チチさんが言ったのはもう一つの意味。もう一つはね、血統が良いって意味で使われるの。」
「ほぉ…」
血統が良い。つまりトランクスはチチからみて一目置く存在だということだ。
そう思われて悪い気がする親はいないだろう。ベジータだって当然嬉しく思うこともある。
やはりチチは良くできた女のようだ。ベジータはニヤリと口元を釣り上げた。
「アンタって意外と単純なのね。嬉しそうな顔してさ」
「……。」
少しベジータは気恥ずかしくなった。でも今は頬を赤らめている場合ではない。
何と言っても彼らの息子は未だ大混乱中なのだから…。
「たぶん、チチさんは私たちもトランクスに英才教育を施すんじゃないかと思ってるのね。だから悟天くんにトランクスの邪魔はしないようにって言ったんだと思う」
「英才教育…。」
懐かしい響きだ。とベジータは思った。
彼も幼い頃はサイヤ人の王子として相応しくあるために様々な英才教育を受けた。
その教育の殆どが戦闘に関するものではあったが…
形は違えど地球にもそういう風習があるのかと少し感心した。
トランクスにも英才教育…。
「当然だ!サイヤ人の王子であるこの俺の息子なんだ。教育は施さねばならない」
ぎゅっと拳に力を入れて宣言した。地球一の教育を。彼の息子にはそれが相応しい。
「あ、そう…。でも私は反対。」
「何だと!?」
予想外の妻の反対意見に彼は大いに狼狽えた。
まさかブルマはトランクスに教育など必要ないとでも言い出す気か?
そんなのは正気だとは思えない。絶対に間違っている。
「あ、誤解しないでね。勿論、教育はするわよ?人並み程度にはね。でもチチさんが悟飯くんにしてるような英才教育を私たちがトランクスに強要するのはどうかなって思うの。本人が望むのなら別だけど…」
どちらにしても今はまだ早いとブルマは考えている。
せめてブルマが初めて出会った時の悟飯、つまり四歳の頃の悟飯と同じくらいまでトランクスが育つまでは彼に何も要求するつもりはない。
それに、と、ブルマはベジータに意地の悪い笑みを見せる。
「私がチチさんみたいな教育ママになったら、アンタ、トランクスと修行できなくなるわよ?いいの?」
「!?」
何でそうなる!?と言いたげな表情を浮かべる彼にクスクスと笑ったブルマが続ける。
「チチさんは世界の平和や強さよりも悟飯くんの勉強の方が大事だって前に言ってたわ。アンタもそう思う?」
「……さあな」
でも、ベジータはブルマの意見に異議は唱えなかった。
トランクスの人生はトランクスのもの。考えてみれば何かを強要して無理矢理させたところで身に付かないのは明らかだ。
勉強も修行も本人にやる気があってこそ意味がある。
「その点で言えばチチさんはある意味ラッキーよね。悟飯くんの将来の夢は偉い学者さんだって言うし。あの子、勉強が好きなのね。孫くんの子供とは思えないくらいよ」
確かに。カカロットとは全く正反対のようだ。あのガキは。
それなのに、あれでこの俺を超える実力を身に付けていたとは…。
セルと戦った時の悟飯を思い出し、ベジータは再びプライドを傷付けられたような気分になった。
「もう。そんな顔しないで…。誰にだって予想外の事が起こることもある。でもいつかは、本当にそれが好きな人がその道の頂点に立つものよ?」
ベジータの頬に手を添えてブルマは微笑んだ。
「うちの父さんがそれを証明しているわ」
今も研究室に篭って研究を続けているブルマの父親。
宇宙一とは言えずとも確かに彼とその娘が知る世界では一番に変わりはない。
他の星の技術に触れる機会さえあればそれすらも吸収してしまうのではと思えるくらい。
信用に値する人物たちだとベジータも思う。
そんな人物らの一人であるブルマが言うのだから彼女から出た言葉も信じられる。
「そうだな。」
ベジータもブルマに微笑みを返した。


結局、サラブレッドの件はトランクスの母親であるブルマから彼に詳しく説明する事になった。
翌日、ベジータによってブルマの所に連れて来られたトランクスは彼女のベッドの上に母親と向かい合わせに座り彼女の話に耳を傾けていた。

「というわけでね、トランクスは馬になんかならないのよ?」
「ほ、ほんと…?」
「本当よ。」
今まで不安そうな顔をしていたトランクスの表情が段々と柔らかくなってゆく。
「トランクスは皆が羨ましいって思うくらい家族に恵まれているのよ?」
「…?そうなのかな…?よくわからないよ」
トランクスにはまだ理解するのは難しいらしい。
と言っても馬にならない事が解っただけでもトランクスにとっては収穫なのだが…。
「いつかはトランクスもわかる日がくるわ。でもね…これだけは約束して頂戴ね」
「やくそく?」
「そう。約束。」
「どんな?」
そうねぇとブルマは顎に手を当てその疑問に答える。
「もしトランクスがいつか自分の恵まれている状況を自覚した時、それを誇りに…つまり嬉しく思うのは構わないわ。でもね、絶対にそれを誰かに必要以上に自慢したり、自分とは違って恵まれていない人がいたとしても絶対にその人を見下したり馬鹿にしたりしちゃ駄目よ?これが約束よ。」
彼女の言葉をトランクスとは別の場所に座って聞いていたベジータはうっと喉を詰まらせた。
自慢…見下す…馬鹿にする……。
心当たりがあり過ぎて少し胸が痛い。
まさかカカロットと地球で対戦した時の自分のことを見てたのだろうか…?
いやいや、あの時は既に他のメンツは死んだり敵前逃亡したりして居なかったはずだ。
一部は戻ってきたりもしたがそれでもブルマが居なかった事だけは確かだ。
……まさか、スパイロボットでも仕込んでいたか?
いやいやいや、それもあり得ないだろう……と信じたい。
ドクター・ゲロじゃあるまいし…。
そんな彼の思いとは裏腹にわかったと頷いたトランクスと笑いあうブルマがそこには居た。


「な〜によ?さっきから考え込んじゃってるような顔しちゃってさ。トランクスはとっくに出てっちゃったわよ?」
アンタはまだここにいるの?とブルマは彼の顔を覗き込んだ。
反射的に彼は仰け反る。
「あ、いや…うむ」
「はい?」
「いや…。」
「な〜に?」
ニコニコっと笑う妻の顔に何故か危機感を覚えるベジータだが努めて平静を装う。
「何でもない」
けれどそんな答えで満足しないのがブルマだ。
あ〜わかったとベジータにいやらしい笑いを向ける。
「罪悪感でしょ?そうなんでしょ」
「は?」
「アンタって口を開けば自分はサイヤ人の王子だって自慢してたし、地球の技術は遅れてるって馬鹿にしてたし、孫くんは下級戦士だっていつも見下してるし」
「うっ…」
どうやら無意識のうちにブルマに向かって同じことをしていたらしい。
本人は一々覚えていなかったが…。
「でもそういうアンタだから惹かれちゃったのかもね」
「……?!」
何かとんでもない発言が妻から飛び出たような気がする。
いつも自分の生まれを鼻にかけ、他人を見下し馬鹿にする、そんな男だから惹かれたかもしれない?
それではまるで自分の事をマゾヒストだと宣言しているようなものだ。
ドM。の妻……。ぞくぞくしたようなものがベジータの中を駆け巡る。
わ、悪くない。とても甘美な響きだ。妻もそれを望んでいるのかもしれない…。
「アンタ…今度はちょっと不気味よ。その顔はやめて!」
ぶるっと肩を揺らしたブルマに彼はもう遅いと内心ニヤリとした。
「もう本当、やらしいんだから!でもね…」
ブルマはそっと手を胸に当てて目を閉じる。
「偉そうで無礼極まりないアンタだけど、どうしても放って置けない。気になって仕方がないの。そんなアンタが大好きよ。ベジータ…」
彼女は何度も彼を愛していると言った。
何度も好きだとも言った。
だけどそれまで彼女が口にしたどんな言葉よりもベジータの心に届いたかもしれない。
この女は彼の欠点も引っ括めて自分の全てを受け入れてくれる。
そんなところを彼も愛しく思う。
トランクスには彼女のこういうところを受け継いで行って欲しいとベジータは心からそう思った。

やはり彼らのサラブレッドにも教育は必要だ。
彼女の言う通り過度な教育の強要はしなくとも…。


おわり


ーーーーーーーーーー
私は結構馬が好きです。
とっても賢いし!

リアリスト〜星座占い〜

それは普段と何も変わらない、ありふれた日常、朝の出来事。

『今日、最も運勢が良いのは獅子座のアナタ!
普段なら難しいと思える事も今日ならすんなり成功しちゃうでしょう!
思い切って新たなことに挑戦するのも吉!ガンバってね〜!』

テレビから流れてくる元気あふれる若い女性の声。
今、巷で話題のZTVのニュース番組が提供する朝の星座占いだ。

「やった!私よ私!」
朝から大声で喜びを表すブルマにベジータは頭痛がする思いだった。
何が星座占いだ。本当にくだらない。
そもそも占い自体が詐欺みたいなものだろうとベジータは常々思っていた。
ブルマの知り合いに占いで大儲けしているババアがいるというが何故詐欺罪で捕まっていないのか疑問である。

山羊座ベジータは6位かあ。良くもなく悪くもなく、本当、つまんない順位よね」
「……。」
本来、ベジータには誕生日が無かった。
いや、無かったというより正確には、ベジータは自分が生まれた年は知っていたが、何故か生まれた日を知らなかった。
親が彼に教えなかったのか、教えられたが唯忘れてしまったのか、それすらも記憶にない。
どちらにしろ、それまでずっと戦いに明け暮れて誕生日など一度も祝ったことのなかったサイヤ人の王子である自分にはどうでもいいことだった。
しかし、ブルマにとってはどうでも良くなんかなかったらしい。
ベジータが自分の誕生日すら正確に覚えていないのを知った彼女は彼の境遇に同情し、彼の代わりに涙を流した。
当時のベジータにはブルマのとった行動はとても奇妙に映った。本当に不可解だった。
それから暫くして、ブルマは、ベジータフリーザに殺されて、神龍によって再び蘇った12月24日を彼の誕生日に指定した。
その時はフリーザに殺された日を自分の誕生日にするなど冗談じゃない!と断固反対の姿勢を見せていたベジータだったが、不幸を幸福に変えると言い放ったブルマの持論に胸を打たれ、彼女の希望を受け入れることとなった。
それなのに…。

つまらないとは随分な言い方である。

「いいか?星座占いなど唯のまやかしに過ぎん。詐欺師の嘘に振り回されてるんじゃない」
きっぱりと現実を突き付けてやった。どうだ、参ったか。
「何言ってるのよ。この占いはね、当たるって世間では大評判なの」
全く、この女は素直に主人の言葉を信じられんのか?
当たると大評判?阿呆か!
そんなの詐欺師に金を捕まされた共犯者が世間に垂れ流してるデマに過ぎん。
「よく聞けよ。この地球には約72億人の人口が存在する。そして星座は、この星では12か?13か?まあいい。12星座としてだ、12星座だ!72億を12で割るといくつだ?」
「6億よ」
「そう!6億だ!!」
ビシッとベジータはブルマを指差した。
「今日、お前を含め6億の人間全てが同じ運命だと本気で思えるか?」
突き出している手とは反対の手を腰に当てどうだと勝ち誇ったように彼は言い放った。
ふふふ、反論できまい。
が…

「……。アンタって本当にロマンの欠片もない人なのね。」
ブルマの呆れたような声が返ってきた。

ろ、ロマン…。

「アンタみたいなリアリストって、ほんっとうにつまんないわよ」
馬鹿じゃないの?と捨て台詞を吐いて彼女は部屋を出て行った。
おそらく仕事にでも行くのだろう。

「……ふんっ」
折角、真実を諭してやったというのに無礼な女だ。
でもちょっとだけ寂しい…。なんてことはないぞ!断じて!!

ベジータは自分も部屋を出でるとそのまま重力室に向かい、そこに閉じこもると日が暮れるまでトレーニングに勤しんだ。


おわり


ーーーーーーーーーー
某チャンネルでは今でも朝の占いをやってるんでしょうか?
最近テレビをあんまり見ないので…