Elysium

ネタ帳

ぎるぎる

最近、このカプセルコーポレーションに新たな住人、いや、住ロボが加わった。
名前はギルと言うらしい。悟空や悟空の孫のパンと一緒にドラゴンボール探しに行っていたトランクスが宇宙から連れ帰ったマシンミュータントだ。
聞くところによるとこのギルはあの憎たらしいツフル人の技術によって生み出されたらしい。
以前ベビーによって肉体を支配されていたベジータにとって、きっと奴らを思い出させるロボットが家の中をうろつくのは気分の良いものではないだろう。そう皆は思っていた。
しかし、当の本人にとってギルは別にどうでもいい存在だった。
ツフル人の技術が生み出したからといってギルそのものには責任は無いし、だいたいツフル人の技術を毛嫌いしていたわけでもない。
現にベジータは他人の気を探る能力を身に付けるまではスカウターを使用していたし、長期に渡って使用してきた戦闘服も地球に来てからはブルマが作っていたとはいえ元々はツフル人が発明したものだった。
使えるものは使い、邪魔なものは排除する。
つまりはベジータにとってギルはどちらにも値しない関心すら向けるべき相手ではなかったということだ。
これまでは…。

「おい」
ベジータは今や破片しか残されていないトレーニングマシンを睨み付けながら室内の隅に隠れているつもりらしいギルに話しかけた。
今日という今日はアレを許してはおけない。今まで何度か、あのマシンミュータントはこの重力室に侵入し、ベジータにとって必要不可欠に近いトレーニングマシンを空腹を満たすために食べてきた。
何故寄りにもよって宇宙一危険かもしれない男の持ち物をわざわざ危険を侵してまで食べようとするのか?
ギルに言わせればグルメだから。ただそれだけである。
彼にとって唯の鉄くずも美味しい食事には変わりないが、高性能のマシンはもっと美味しい食事。それを思えば普段ベジータが使用している重力室にはギルを惹きつける魅惑の果実というべきマシンが盛り沢山なのだ。
「お前が今回食べたコイツはな、俺が此処に来て初めてブルマの父親に作らせた修行ロボットだ。」
あれからベジータの成長に合わせて改良に改良を重ね、現在では当時とは比べ物にならないくらい高性能のマシンとなっている。
謂わば、ベジータにとって、この食べられたマシンは彼と一緒に育ってきた掛け替えのない友人のような存在だった。
説明しながらベジータは重力室の扉にロックをかけた。とりあえずは、これでヤツの自力脱出は不可能になるだろう。
危険であるという理由から修行中はロックをかけた本人か、ロックをかけた者から解除コードを聞いたその場にいる人間、もしくはロックを無条件に解除できる特別コードを持っている家族しか扉を開けられない仕様になっているからだ。
まあ他にも方法は有るには有るが、どちらにしろこのマシンミュータントには無理な方法だろうとベジータは想定する。
「いい加減に出て来たらどうだ?時間の無駄だ。」
けれどギルは出てこなかった。あらゆる危険を察知できる能力を有した彼にとって危険人物の前にひょこひょこ顔を出すなどはあり得ないことだ。
「なるほど。ではこちらから行くとするか」
カツカツと近付いてくる足音にギルは直ぐさま反応した。美味しい食事を食べたばかりで逃げ回る分のエネルギーぐらいは確保できているつもりだった。
ギルル〜〜!!ギルギル〜」
どれぐらい逃げれただろうか?数分?数十分?いや数時間?ギル自身にはとても長く感じられた。
それもそのはず、ベジータはわざと捕まえようとせず追い回していただけなのだから。
「ほぉ?動きだけはなかなかのものじゃないか」
もしかしたらトランクスでも捕まえるのに苦労するんじゃないか?ベジータは喉を鳴らした。
しかしそれもちょっと飽きてきた。ベジータはギルの足をぎゅっと掴むと逆さ吊りにしてその顔と目が合う高さになるまで腕を上げた。
「覚悟は出来たか?ガラクタ」
いくら何でも破壊はしないつもりだった。それをすればギルを友人のように可愛がっているトランクスが悲しむと思ったからだ。
だからベジータは少し痛い目に遭わせてギルを反省させる。その後の事は逃げるだろうギルをそのままに、すんなり解放してやるつもりだった。
けれどベジータの目論見を全く知りもしないギルはベジータのその言葉にこれ以上ない危機感をつのらせた。
ここで最大の防御と言うべき攻撃を仕掛けなければ確実に殺(壊)される!
ギルは本能に従った。
「キケン!キケン!ベジータ、キケン!」
ギルが叫び声を上げたと同時に彼の胸部からミサイルが放たれた。
咄嗟の事に驚いたベジータはギルをその手から離し自身をガードする。が、コンマ数秒の遅れにより運悪くミサイルが頬をかすめた。
そこから少し血が滲み出る。
「このクソ野郎が…」
ベジータの怒りは頂点に達した。ここまで来ると彼の中に眠らされていた残虐なベジータが頭をもたげ、ギルを大事にするトランクスの事など頭から吹き飛んでしまった。
「くらえぇぇ!!」
ベジータの手からエネルギー弾が放たれた…


「はぁ〜っ、今日も疲れたなぁ」
今やカプセルコーポレーションという大企業の社長となったトランクスは送迎の車から降り、自宅の玄関ホールへと足を踏み入れた。
疲れたと言ってもこの日、取引先との会合があったわけでもなく、唯々デスクワークを強いられていただけなのだが…正直、人と会ってる方が秘書の監視もゆるくて気が楽だと思う。
要するにトランクスの言葉は気疲れから出たものだった。
「ギルの奴、大人しくしてたかな」
彼の友人は当初、トランクスの行く先々に付いて回った。自宅では勿論、他の友人宅、職場、女の子とのデート先、それこそ場所を選ばなかった。
トランクス自身もそれを喜んでいたし、彼にとって普通のことだと信じて疑わなかったのだが、どうやら周りの人間は彼ほど寛大では無かったらしい。
行く先々で最初は物珍しさからギルを歓迎する声は多かったが慣れてくるとちょこちょこ周囲を飛び回るギルが段々と鬱陶しく感じてきたのか余り良い顔をしなくなった。
トランクスはその異変に気付き、初めは、勝手な奴らだと他の人間を相手にもしなかったが、つい先日、会社内でトラブルが起きてしまった。
カプセルコーポレーションが総力を挙げて開発中だった新商品の試作品を皆が休憩中、目を離した隙にギルが食べてしまったのだ。
流石のトランクスも開発メンバーの苦労を蔑ろには出来ず、ギルを責め立てた。そして皆が望む通り会社への出入りを禁じたのだが。
悟空やパンがギルの傍に居ない今、彼の近くにいる友人はトランクスのみ。そのトランクスとも昼間は引き離され正直可哀想だなとは思う。
しかし、世の中は彼中心に回っているわけでは無いのだから慣れてくれと言う他ない。その代わり、自分が家に戻った時は彼の友人としてたっぷりの愛情を注いでやろう。
トランクスは小さい体の友人を思いにっこりと微笑んだ。
「ギル〜!戻ったぞー!何処に居るんだ〜?ギル〜!」
大きな声で名前を呼ぶ。いつもならこう呼べば直ぐに彼はトランクスの元にやってくる。今日もそうなるだろうと予想していた。
しかし、ギルはいつまで経っても現れなかった。
「出掛けてるのか?」
パオズ山にでも行ったのだろうか?トランクスはリビングに向かい、そこにある家族の予定が記されているボードを確認した。
普段、唯でさえ行動が別々になりやすい家族は子供達が成長してから家の中で顔を合わせることが以前よりだいぶ少なくなった。その為、お互いの行動を把握するのがより難しくなった。
なので、前もって予定がわかってる時や急に用事ができた時はここに書き込んで他の家族が心配することがないように気配りしようということになっている。
トランクスがドラゴンボール探しをしに宇宙に旅立つ前には無かったギルの名前が彼によって追加されたのはつい最近のことである。
といってもギルはまだ地球の文字を書けないので書いているのはトランクスかギルに頼まれたブルマかブラなのだが…
ギルの予定の所には現在、何も書かれてはいなかった。ということは家の中に居るか、もしくは書き忘れ。
どちらも可能性はある。けれどやっぱり書き忘れでは無いだろうか?
トランクスは自分の声が聞こえていたのなら必ず自分の前に現れていたはずの友人を思った。
「帰ってきたらお仕置きだな」
何かを躾けるのは大変だと彼は苦笑をもらした。
「あ〜あ。折角遊んでやろうと思ったのに」
もしパオズ山に行ってるのならーートランクスにはそうとしか思えなかったーー俺も行こうかな?などと考えていると上の階の重力室でベジータの気が大きく膨れ上がったのを感じた。
「えっ!?」
普段、ベジータはこの家へのダメージを考え、あそこまで気を大きくはしない。なのに今は家への影響など考えていないかのように気を高ぶらせている。要するにキレている時のベジータなのだ。
「母さんと喧嘩でもしたのかな?」
言ってみて、しかしやっぱりあり得ないだろうと考えを改めた。両親が夫婦喧嘩を繰り広げるのはそれこそ日常茶飯事のことだが、そういう時は決まってベジータはどちらかが折れるまで家を出て行ってしまう。
離れて過ごしお互いが頭を冷やせば、結局、お互いがどれだけ相手を思ってるのかがわかり、次にどう行動すれば良いのか知ることができるというように。
実際、揉め事の殆どはその方法で片付いているようだ。詳しい事はトランクスにもよくわからないが。
だから夫婦喧嘩なら父親は既に家にいないだろうし、何より、数日前からブルマは南の都へ出張中だ。戻るのも明日の夜。目の前の予定表にそう書かれている。
ということは、ベジータは他の理由でキレているのだ。
しかし、あれほどまでに父親を怒らせる存在など悟空さん以外にあるだろうか?
「ま、まさか…。」
呼んでも現れず、予定表にも何も書かれていなかった友人…。
高性能な機械をみるとすぐに囓ってしまう友人…。
そんな友人に最近重力室のものを食われたと愚痴をこぼしていた父親…。
その行いをギルに何度か注意したトランクス…。
もしかしたら状況は最悪の方向に向かってしまったのかもしれない。
トランクスは着ていた上着をリビングのソファーに脱ぎ捨て、全速力で最上階を目指した。


「くっそぅ〜〜!一体、どうなってやがる!?」
ベジータはハァハァと息を切らせ、何度攻撃を加えても、そのまま跳ね返してくる目の前のマシンミュータントを睨み付けた。
ベジータ、キケンキケンキケン!!!!!」
「うるっせぇぇえええ!!」
ズバババババババ
「ぐっ…」
「ぎるるる〜」
まただ。やっぱりベジータの攻撃はギルに少しのダメージも与えることなく彼に跳ね返ってきた。それをすんでのところでかわす。ベジータはチッと舌を打ち鳴らし肩をがっくりと落とした。
「暖簾に腕押しとはこのことだな」
これだからこんな意味不明なロボットとは関わりを持ちたくなかった。それなのにこいつは気付けばベジータの近くにのこのこ現れ、彼を苛立たせる。
しかし、変だなとベジータは思った。
自分の記憶が正しければ、自分の体がベビーに乗っ取られていた際、彼はギルに攻撃を加え倒したのでは無かったか?
確かにベビーに乗っ取られたことでその間少しはベビーの細胞が彼の肉体に影響していたとは思う。
が、戦闘能力はベジータ本人が操るよりも遥かに劣っていたはずだ。
それに、あれからベジータも修行を重ね、あの時より格段にパワーアップしている。
それなのに何故傷一つ付けられない?トランクスが改良したのだろうか?
「いや、あいつはブルマほど優秀じゃない」
壊れたのを元に戻すのが関の山だっただろう。それすらもブルマの力を借りねば難しかったのではないか?ベジータはそう考えた。
かといってブルマが改良したとも思えない。彼女の気性ならツフル人のメカを改良した日には凄いでしょと自信満々にそれをベジータに報告しにきていたはずだ。
他の人間には決してそんなことはしないのにベジータが相手となってはその優位さをアピールせずにはいられないのだ。
そんなわけで、やはり解せないこの状況が気になりだしたベジータは何としてもこの疑問を解決せねば夜も眠れないと思った。
「おい。こっちに来い」
まずは隅から隅まで見てみないと始まらない。見て理解出来るかはまた別の話だが、兎に角傍に置いて見てみようと思った。
「イヤダ」
散々攻撃を加えられてギルが素直に応じるはずはなく速攻で断られた。
そりゃあそうだろうなとベジータは苦笑した。
「もう攻撃はしない。いいからこっちに来い。ちょっと体を見るだけだ」
「………イヤデス」
体を見ると言われて余計に警戒したギルは自分が解体されてしまうのではないかと震え上がった。
このベジータという人間はトランクスの家族なのに彼とは全く違う。それは短い期間といえど一つ屋根の下で暮らしてみてよくわかった。
ここで彼の要求に従えばもう二度とトランクスやパンたちとは遊べないかもしれない。それぐらいこの男はキケンなのだ。
ギルはまたベジータに照準を合わせミサイルを打った。
何とかこの部屋から出る方法はないだろうか?どうしても見つからないようなら扉を壊すしかない。でもどうやって?
「ソウダ!」
溶かせばいいのだ!いくら強力な金属でもギルならそれを溶かす事ができる。善は急げ!この体をバラバラにされる前に!
ビビビビビビビビ
「お、おい!ふざけるなよ!」
急にまた攻撃を仕掛けてきたと思えば今度は重力室の扉に向かい、ビームを放つギルにベジータは焦っていた。
コイツ、トレーニングマシンを食うだけでは飽き足らず重力室そのものをダメにする気か!?
冗談じゃない!今直ぐそのふざけた体を扉から引き離してやる!
攻撃が効かなくとも捕まえることは出来るはずだ。
ベジータは思いっきり気を高めた。そこまでする必要が有るのかは甚だ疑問であるが状況は差し迫っているのだから仕方が無い。失敗は許されないのだ。
扉が完全に壊される前に奴を捕まえねば…!
充分な気を練ったベジータはそれを両の脚に集中し次の瞬間にはギルに向かってダイブしていた。
「ギルゥ!?キケンキケン!キケェ…ン!?」
流石のギルもこれを回避するのは難しかったらしい。というか回避したつもりだったが回避した先にもベジータがいたのだ。
ギルの健闘も虚しく、あえなく御用となってしまった。
「ふんっやはり所詮は機械。処理が追い付かなかったようだな」
次は逃がさんぞと、先の数倍以上の力を込めてギルの足を掴んだ。
「よう、ガラクタ。今度こそ覚悟は出来たか?」
「ギルゥ……。」
遂に諦めたらしい。また逆さ吊りにされたギルがぐったりと腕を垂らしたのを見てベジータはニヤリと笑った。


さて、調べるか。とギルの体を凝視したベシータだったが、まさにそのタイミングで特別コードを使用したトランクスが重力室に駆け込んできた。
「父さん!ギル、此処に来てるでしょ?………ギル!」
「ギ…ル…?ギルル!?トランクス!トランクス!タスケテ!ベジータキケン!カイタイ!キケン!」
折角戦意を無くし、ぐったりとしていたのにまた暴れだした。
自分の手から必死に逃げようともがきだしたギルをベシータは更に強い力で抑え込む。
「逃がさんと言っただろう?いいからじっとしてろ」
「父さん!ギルを離して下さい」
「駄目だ」
「父さん!」
必死に食い下がろうとするトランクスの表情にベジータはぐっと苦虫を噛み潰したような気分になった。
これではまるでこっちが悪い事をしようとしているみたいではないか。
「ちょっと調べるだけだ」
「調べる?」
「ああ。どんなに強いエネルギー弾を放っても悉く跳ね返してくるんでな」
「えぇ!?」
トランクスは意外だというように目を見張った。
「父さんの攻撃を全て?」
「そうだ」
「そんなのって……。」
俺にだって無理なのに…。トランクスは信じられない気持ちで一杯だった。ベジータはそれには構わずギルの体を弄り回している。
「そういえば、お前が来る前にコイツはドアにビームも当てていたな。あれは何だ?」
「ああ…それなら、たぶん金属を溶解するビームですよ。だよな、ギル?」
「ギル…」
「俺たちその能力でギルに助けられたこともあるんです。ドアにビーム当ててたのならたぶんギルはドアを溶かして父さんから逃げようとおもったんじゃないかな」
ハハハとトランクスは顔を引き攣らせながら笑った。
見てみると少し扉が溶けている。後で修理しておこうと彼は思った。
ベジータはふんっと鼻を鳴らした。
ここから逃げたところで家の敷地の外までは逃げ切れまい。全く無駄な努力をしようとするロボットだ。しかし…
「さっぱりわからんな。そこらのロボットとそんなに変わらないボディーをしているように見える。どういう事だ?」
トランクスはさっきのエネルギー弾の跳ね返しについて父親が聞いてるのだと気付いた。
しかし、トランクスにもよく分からない。彼の前でだってギルはそんな能力を見せたことがないのだから。
けれどトランクスはあっ!と重要な事を思い出した。
「父さん!ギルはここに来て何かを食べたんじゃないですか?それで父さんが怒って……。」
そこまで言ってトランクスは押し黙った。ベジータに鋭い目つきで睨まれた彼はまるで蛇に睨まれたカエルのようで、これ以上何かを言えば危険だと長年の経験からわかっていたからだ。
ベジータは溜息を吐きながら答えた。
「修行ロボットが全滅だ。責任とれ」
「いっ!?……ギル!!アレを全部食べたのか?!」
トランクスは父親が使っていた修行ロボをよく知っていた。彼も随分前に父親に言われてアレで修行したことがある。言葉こそ話さないがアレはとても厄介な対戦相手だった。
浮遊するそれは自分からは攻撃を仕掛けてくる事は無いが相手の攻撃を瞬時に解析し相手の動きに合わせて不規則な反射攻撃を繰り返す。しかも数体が組み合わさればその攻撃パターンを予測するのは極めて難しい。
自分が生まれる前に父からの依頼を受けた祖父が夜なべして製作したと以前母親のブルマから聞いたことがあるが、戦いのいろはも知らなかった彼がよくこんな仕様を思いついたなとトランクスは何度も感心していた。
彼は間違いなく世界一の科学者だった。今はもう現役を退き、会社の経営を娘のブルマと孫のトランクスに任せて自分は妻と一緒に田舎で隠居生活を送っているが。
また近いうちに会いに行きたいなとトランクスは遠くにいる優しい祖父母を思い出し微笑んだ。
しかし、あのロボットを残さず食べてしまったとは…。少なくとも10体はあったはずだ。
アレを10体分以上吸収したとなると今のギルはとんでもない防御力と反射能力を兼ね備えているはず…。ベジータが苦労するのも無理はない。
何しろ一体でもベジータの攻撃に耐えられるように作られているのだ。
少しはメンテナンスする人間の気持ちも考えてパワーアップしてよねといつもブルマがボヤいていた。
トランクスからしたらあのとんでもなく強い父親が自分自身と戦ってるようなものなんだからサイヤ人の特異体質を思えばそりゃあパワーアップは早いだろうと思うのだが。
まあそんな事は今更言っても仕方のないこと。戦い好きのサイヤ人を選んだのは母親自身なのだから。
色々と考えが横道に逸れてしまったが、兎に角、今は目の前の問題を片付けてギルを父親の腕の中から解放してやらねば。
トランクスは自分が知る限りのギルに関しての情報を父親に話し始めた。

「というわけで、あの修行ロボットたちの能力はギルに取り込まれたんです。要するにギルは高性能なマシンを食べれば食べるほど強くなれるわけで…」
「……。」
何ということだ!このふざけたガラクタ人形にそこまでの能力があったとは。
以前戦ったセルは他人の細胞を取り込みパワーアップしていくという特性を持っていたが、こいつはそれの機械版というわけか…。
ベジータはまた厄介なものをこの家に持ち込みやがってとトランクスを睨んだ。こいつはちゃんと躾けておかねば後々大変な事になるのではないだろうか?
というかあのツフル人ーーベビーのことーーが仕切る組織に作られて、よく今まで悪の道に走らなかったものだ。
いっその事、今のうちに破壊するか?一瞬そんな考えがベジータの脳裏を過ぎったが、やはりそれは出来ないと思い直した。
気付けばいつの間にかギルはベジータの元から逃げ出し、今は重力室の中でトランクスを相手に新しく身に付けた能力を披露している。
トランクスが放った気功波を跳ね返しながら彼と戯れているギルを見ながら深く溜息を吐いたベジータはトランクスにある提案を持ち掛けた。
「トランクス、今回そいつがした事を不問にしてやる代わりに条件がある」
その言葉にそれまでギルと遊んでいたトランクスの動きが止まった。
「条件…?」
何か嫌な予感がするなぁと苦笑する彼に構わずベジータは続けた。
「お前は昼間こいつの世話が出来ないんだろう?だから代わりに俺がしてやる」
「えっ」
「勿論、タダでは無いがな。ギブアンドテイクだ」
ニヤリと笑ってそう告げた父親にトランクスは頷いたものの、これは大変な事になったなと今後のギルの生活を思い彼に同情した。
でも、まあ…ギルの自業自得。食べたものの代償だ。
トランクスは更に父親から出された条件にも頷くしかなかった。
ーーー昼間、ベジータとギルの間で起きる事に関して、例えギルが泣きついてきても相手にしない。ギルが悪意を持って壊されようとしていない限り。


『きみが自分で決めた事だ。失いたくないものまで賭ける道を選んだのはきみだ』
『そしてあなたは勝つことを選択した』
『若い時にこれほど貴重な教訓を得られた事を感謝するんだな。今着ている服と空っぽの家しか残らなかったのは可哀想だが』

「……ギルル〜」
テレビ画面の中で繰り広げられているドラマに見入っていたギルは気の毒な青年に同情して悲しみの感情を声に表した。
どうやら自分の力を過信しすぎた彼は自分が嵌められているとも気付かず欲に目が眩み全財産を賭けた大勝負にでて大負けしたらしい。
欲に目が眩み……。
あの時の自分もそうだった。美味しそうなご馳走を前に自分の欲望を満たす事しか考えられずキケンなものに手を出してしまった。それと引き換えに失った自由…。
ただ一つ言えるのはギルは決して誰かに騙されて彼がそう行動するように仕向けられたわけではない。それが唯一の救いだろうか?
でも、やっぱり失ったものは大きいと思わずにはいられなかった。
「ジゴウジトク…ジゴウジトク…」
トランクスはそう言って助けてはくれなかった。きっとベジータがコワイからなんだと思う。
ギルは流せないはずの涙を今なら流せるのではないだろうかと思った。
正直、逃げたい。彼がくる前に。けれど逃げて良かったと思えたことなど今の今まで一度もなかった。
逃げたら逃げた分だけ苦しい時間が伸びるのだ。素直に従っておく方が身のためだろう。
トランクスは心配しなくても破壊されたりはしないと言った。
けれど何度、もうダメ…かもしれないと思ったことか……。
今はまだ大丈夫でもいつか必ずその日が来ると思う。これは確信だ。
「あら?ギル、こんな所にいたのね」
リビングでテレビを見ていたギルのもとにブルマがやってきた。
アンタ、テレビなんか見て、この物語理解してるの?凄いわねと感心している。
「そうそう、ベジータが探してたわよ」
その台詞にギルは魔の時間が刻一刻と迫っているのだと感じた。
「ブルマ、タスケテ…ギル、コワレル……。」
もう頼みの綱はブルマしかいないとばかりに泣きついた。涙は出ていないけど…。
「あ〜よしよし。大丈夫よ。ベジータだって壊れるまでアンタを酷使したりしないって。」
「デモ…コワイ…」
ここまでギルが嫌がるなんて重力室の中では一体どんな修行が繰り広げられているのか。ブルマには想像すらも恐ろしくて出来やしないと思った。
しかし、ギルが拒否をすればするほど彼には良くない事が起きるだろうとブルマ思った。それを彼に諭す。
それでもイヤイヤとギルは嘆いた。
「もう、ほら、そんな嫌な顔しないで!今日の修行が終わったら美味しいものが沢山食べられるようにしとくから!ね?」
試したいことも有るしとブルマは言う。他のマシンの機能を自分に取り入れる事ができるギルの能力はブルマにとってもいい研究対象だった。
だからギルには今まで色々な物を食べさせてきた。
それこそギルが大喜びしそうな美味しい食事ばかりを。
現に今も彼女の言葉に喜んでいるギルが空中でくるくると回っている。
「ゴハン!ゴハン!オイシイゴハン!ギル、ガンバル!」
ギルは宣言した。全くこの子は現金なんだがらとブルマは呆れたように言った。
「ほう〜今日は随分とやる気のようで安心したぜ」
「!?」
一体いつの間に現れたのか?ベジータは見つけた標的にニヤリとした表情を向けてリビングのドアにもたれ掛かっている。
さっきの宣言は何処へやらギルは逃げようと窓に向かって飛び始めた。
しかし、いつもの事ながら直ぐにベジータに追い付かれかたと思うと同時に足を掴まれてしまう。
「ギッ…!!」
そしてまた逆さ吊り。ギルはそのまま重力室へと連れて行かれてしまった。
それを見てブルマはフフッと笑う。
「生き生きしてるわね、ベジータ。とても楽しそうよ」
時が経てば人も変わる。
昔のベジータも好きだったけれど、今の彼はもっと好きだ。
ただちょっとギルには気の毒だけど。出来ればもう暫くは彼に付き合ってあげて欲しい。
「さてと…私も頑張らなきゃ!」
ブルマは付けっ放しになっているテレビの電源を落とした。


おわり


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*GTは数回しか見ていないので矛盾したところがあるかもしれません…。