Elysium

ネタ帳

彼女の頬っぺ

ブルマは色気を振りまくのが好きらしい。

ベジータが初めてそう感じたのはいつの頃だったか…正直思い出せないでいた。
それにしても、よく飽きないものである。
『海水浴』
海に入って泳いだり、日光浴をしたりすることだが、
まあ毎度毎度よくこんなに人が集まるものだなと思うくらい大勢の人間が彼の周りをうろちょろしていた。
全く鬱陶しくてかなわん。
しかも、泳ぐといっても誰も彼もが浜辺でキャピキャピしているだけであんなもの泳いでいる内には入らんだろうと思う。
何故、誰一人として向こうの島を目指そうとか、競争しようとか言い出さんのか?ベジータは呆れるばかりであった。

なのに何故、彼がこんなくだらないことに毎年付き合っているのかといえばアレだ。ブルマだ。
今年も派手で目のやり場に困るような挑発的な水着を買って来たと思えば皆にその姿を見せびらかしたいとでも言うのか、海行きーーそれも夫婦水入らず、二人きりのーーを計画実行し、今もその色気を周囲にばら撒いている。
勝手にやってろとベジータが彼女の誘いを突っぱねられないのはやはり彼女のその美貌を評価しているからだった。
現に今も周りのゲスどもの視線が彼女に浴びせられている。
全くけしからんことだ。
だが、ただ見ているだけならまだいい。
しかし何処にでも思い上がった奴というのは存在するもので、今もこうしてベジータという彼女の連れが居るにも関わらず彼女に手を出そうと機会を伺っている愚か者の姿がちらほら。
正直、彼にとって相手にもならない弱者だがブルマにとってはそうではないだろう。
だからこうして嫌々ながらもサングラスの内側から目を光らせているのだ。

「ねえ?どこみてるの?」
ゲスどもの行動を監視していたベジータにブルマが声を掛けた。
「別に。」
監視の目を緩めることもなく、それでも興味がないといったようにリクライニングチェアに体を預けベジータは彼女に答えた。
「嘘。ずっとあの子のこと見てたでしょ?」
「…は?」
彼女が指し示す方向には若い娘が二人、浮き輪を持ってはしゃいでいる。
一度もあいつらを見たことは無いのだが…。
寧ろその近くにいる男どもの方が気になる。
さっきからじろじろとこっちを見やがって!ブルマを狙ってるのは明らかだった。
「あの子可愛いもんね。体つきもいいし」
わけがわからん。だいたい、あの子って誰の事だ?どっちの娘のことを言っている?
まあどっちの娘にしても全く興味も無いのだが…。
「そんなに気になるなら誘えばいいじゃない。きっとあの子も喜ぶわよ。アンタ素敵だもの」
……。
さっきから何なのだコイツは。わけのわからん事ばかり言いやがって。
海に来るといつもこれだ。
やれあの子を見てたでしょ、やれあの子がアンタを見てるわよ
そんな事はないと言っても聞く耳を持たない。
だから、これがあるからコイツとは海に来たくない。
「俺はあんな娘らを見てもいないし、どちらの娘にも興味はない」
わざわざいつもと同じことを海に来る度に言わすなと言いたい。
でも言わなければ何年か前のようにブルマが他の男を誘って自分の側から離れて行ってしまう恐れがある。
けれど彼女は彼の言葉には納得しなかったらしい。疑いの目を向けたままじっとこちらを凝視している。
本当に不愉快だ。
「お前、いい加減にしろよ?人にあれこれ言う前に自分の姿を見てみろ。そんな下品な水着なんか着やがって!周り男共がどんな目でお前を見てるのか気づかんのか!」
そうだ。そのふざけた視線を自分に向けろ。
けれどふと彼女は知っててやっているのではないかと疑いたくなった。
ブルマの方こそ実は隙あらばと別の男を物色しに来ているのではないか?
そんな気がしてならない。
現にあの時、何の躊躇もなく他の男を誘ったではないか。
後にブルマは彼への当て付けでやったと、ただ彼にヤキモチを妬かせたかっただけーー効果は無かったがーーだと言ったが実のところどうなんだか。
「な〜に?妬いてくれてるの?」
「はあ?」
さっきとは一転、上機嫌でこちらに体を擦り寄せてくるブルマにみっともないから離れろと言って彼女の体を自身から離れさせた。
「何よぉ〜ちょっとぐらいいいじゃない」
「黙れ」
そこでふと大量の視線を感じた。
羨ましそうに見る女共や、ふて腐れるように見詰める男共の視線だ。
途端にベジータは居心地が悪くなった。
「くそっ。俺はホテルに戻る」
「えっ!?ちょ、ちょっと!」
呼び止めるブルマに答えることもなくベジータはそそくさとその場を後にした。


「もう!本当に恥ずかしがり屋さんなんだから」
ホテルの部屋に戻るとそのすぐ後にブルマも彼を追って部屋に入って来た。
ベジータは備え付けの冷蔵庫から缶ジュースを一本取り出すとそれを一気に飲み干して彼女を睨み付けた。
「何だ。男漁りはもう終わったのか?」
「やだ。そんなことしてないわよ」
当たり前だ。そんな事をしたら浮気相手諸共首を締め上げて殺してやる。
そんな事を思っているとふふっと笑う彼女の声が耳に届いた。
「何だ?」
「別に〜。妬かれるのって何だかちょっと気持ちいいなと思って」
どこが。不愉快なだけだ。
妬くのも妬かれるのも。
そこでベジータは自分が妬いていたのだと衝撃的な事実を知った。
「……。」
俺がヤキモチを妬く?
それはつまりそれほどまでに自分がこの女に執着しているということか?
馬鹿な!あり得ん。
確かに彼女とは夫婦という関係にはなった。
だがしかしそれはあくまで…。
「ねえ?ベジータ?」
考え込んでいた所為でブルマが目の前に顔を近付けて来ていることに気付かなかった。
ぎょっとして思わず体を仰け反らせる。
「な、何だ…」
「キスして」
「!?」
何てことを言い出すんだ!?まだ日も沈んでいないというのに!
そ、そういうのは夜にしろと言いたい。
ベジータは頭が混乱していた。
「ねえ…。」
「うっ…だ、駄目だ!」
「どうして?」
「ど、どうしてって…」
逃げるか?でもどこへ?逃げてその後は…?
家に戻ってもこの女の事だ、また直ぐに追いかけて来て同じことを言うに決まっている。
かといって他に行くところなど自分にはない。
ならば腹を括るしか…。

ベジータは彼女の顔に手を添えてその頬にキスをした。
「え〜?何で頬なの?!」
ぷぅと頬っぺたを膨らませてブルマが抗議する。
「う、煩い!何処にしろとは言ってないだろ!」
まるで茹で蛸のように顔を真っ赤にしたベジータは願いを叶えてやったんだから文句言われる筋合いはないとばかりに反論し彼女の視線から逃れようと顔を背けた。
正直これが今の彼の限界だ。
ブルマにもそれが解ったのかクスクスと笑っている。
しかし次の瞬間、彼の頬に触れる彼女の唇を感じた。
「なっ…!?」
その部分に思わず手を触れる。
「でもやっぱりこういうのもいいわよね」
何が?とは聞かない。言うとまた面倒な事になりそうだ。
「またしてね♪」
言わなくても面倒な事になったが…。
「調子に乗るな!」
絶対に安売りなどせん!

そう思いながらも彼女の頬っぺたから目を離せずにいるベジータだった。


おわり

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これ、初めは違う話になる予定だったんです。。。汗