Elysium

ネタ帳

恐竜の尻尾

今日の午後、大きな破壊音と共にカプセルコーポレーション内の建物が大きく揺れた。
何事かと家族みんなで音がした場所に駆け付けると、何と!ペットの恐竜が建物の壁にめり込んでいた!
この恐竜は草食系で普段はとても大人しく、こちらから危害を加えたりして怒らせない限り襲っては来ないし、建物を壊したりもしない…筈だった。
それが物の見事に頭から豪快に壁に突き刺さっていたのだから、みんなもびっくり仰天だ。
父さんの顔は真っ青だし、母さんなんて恐竜さんが可哀想とか言って泣き出した。私と言えば口をあんぐり開けて……今思い出すだけでも恥ずかしいったらありゃしない。
そうこうしてるうちに周りにはナメック星人の人集りが。
すぐさま彼らの方に振り返って尋ねた。
「まさかアンタたちが怒らせたんじゃないわよね?」
「いえ、我々は何も…」
気の毒そうな顔をしていた最長老さんーー確かムーリとかいう名前だったと思うーーが答えた。
じゃあ一体何が…。
そこでふと恐竜のある部分がいつもと違うのに気付いた。
「し、尻尾が半分になってる!!!?」
そうなのだ。恐竜の尻尾の真ん中ぐらいから先がスッポリと切り取られていたのだ!
可哀想に骨まで見えている。
おそらく急に尻尾を半分にされて歩行機能に影響が出たのだろう。それでバランスを崩して建物に突き刺さったのだと思われる。
ナメック星人たちは肉は食べないのよね」
何とは無しに呟く。
確かナメック星人は水だけで生きられると前にデンデくんが言っていた。
ハッ!!まさか!
「あ、アンタまさか!地球での生活が長過ぎて肉食になったんじゃないでしょうね!?」
咄嗟の事にピッコロの方に詰め寄った。
「そんなわけないだろう!!」
侵害だとばかりにピッコロは憤慨した。
「そうよね、食べ物の好みなんてそうそう変わらないわよね。」
例え相手がピッコロだとしても…たぶん。
じゃあ一体誰がこんなことを……。
「あ、あの〜…」
頭の中でああでもないこうでもないと考えていたところに一人の子供のナメック星人が話し掛けてきた。残念ながら名前は知らない。
「なあに?ボク」
「あ、あの。僕見ました。あのサイヤ人が恐竜の尻尾を奪ってるところ」
「えっ!?」
「アイツは悪いヤツです。でも僕怖くて…」
「ベ、ベジータのことよね?」
「はい…」
小さな目撃者はまるで自分が悪い事をしたかのように申し訳無さそうにしていた。
そんな彼を安心させようと彼と同じ目線になるように座り込み笑顔を浮かべる。
「教えてくれて有難う。貴方は何も悪い事をしていないんだから気にしないで。ね?」
するとその子供のナメック星人は笑顔になり大きな声でハイ!と返事をした。

そうよ。申し訳なく思わなければならないのはあの男。ベジータよ!!
それにしても予め想定しておくべきだった。思い返せば孫くんだって昔ムカデや狼を捕まえて食べていた。きっとサイヤ人は何でも食べられそうだと思ったものは食べてしまう性質なんだろう。
ましてやあのベジータだ。目の前に恐竜がいたら、それが例え人様のペットだろうと食べないわけがない。注意を怠るなんて自分もどうかしていた。
しかし父さんの大事なペットに危害を加えるなんて!
絶対に探し出してしばいてやらねば!


問題の尻尾泥棒はカプセルコーポレーションから遠く離れた場所にいた。
孫くんやクリリンくんたちが初めてサイヤ人たちと戦った場所だ。
とても探すのに苦労した。と言っても探し始める前に苦労したのだが。
以前、孫くんの兄貴とやらが持っていたスカウターてのが壊れてしまってそのままだったから、それを修理するのに時間と労力が必要だったのだ。
ともあれ無事標的を発見できたし良しとしよう。
目的の場所に着くとすぐに飛行機を下りてベジータに近づき抗議を始めた。
「アンタって人は!何て事してくれちゃうわけ!?」
「は?」
「惚けても無駄よ!目撃者も居てわかってるんだからね!」
「何を言っている?」
「食べたでしょ!!!恐竜の尻尾!」
「………」
「何よ!何とか言いなさいよ!!」
しかし、容疑者は黙秘を続けている。
どれくらい経ったのか?こちらも段々不安になってきた。
「…………?もしかして食べてないの?」
もし、唯の誤解だったら大変に失礼だ。
「ねぇ」
「…」
「ねぇったら」
「…食べたが?」
「!!」
結局食べてたんじゃないの!もしかしてと思って損した!本当にムカつく!!
「だったら何で答えなかったのよ!黙秘権が通用するとでも思ったの!?でもお生憎様!宇宙人はこの地球で法に縛られない代わりに法に守っても貰えないのよ!」
「……さっきから何をギャンギャン騒いでるんだ。うるさいぞ」
「何よ!恐竜を食べたアンタがそもそも悪いんでしょ!?」
「恐竜を食べることの何がいけない?お前たちも食べるからあそこに置いていたんだろ?」
「あれはペットよ!食糧じゃないの!!」
「!!…ペッ…ト……だと?」
「そうよ!悪い?うちの父さんは怪我してる動物をよく拾ってくるの!それが恐竜でもね!飼い主が見つからない場合はうちで飼ってるの」
「…。」
「…。」
「お前たちは頭がおかしいな」
「アンタにだけは言われたくないわよ!泥棒!変態!戦闘マニア!」
一気に捲し立てるが目の前の男は何処吹く風だ。
正直、こちらも疲れてきた。
「ところで…」
「何よ」
スカウターを何処で手に入れた?」
「え?これ?」
そういえばまだ顔に付けたままだった。外しながら答える。
「孫くんのお兄さんが付けてたのを貰っちゃったの。壊れてたし文字も知らないものだったから、先ずは修理してから私たちでも解るように改良したの」
「お前の父親がか?」
「何言ってるのよ!私よ私!私がやったの!」
「…。」
ベジータは驚いたように目を丸くした。
何なのよ?私がやったらおかしいとでもいいたいわけ?本当に失礼しちゃうわ!
「もう帰れ」
「はあ?話はまだ」
「ペットはもう食わん。」
そう願いたいものだ。でもまあ、わかれば良いのよ。わかれば。
「…すまなかった」
「え…?」
「チッ!何でもない!さっさと帰りやがれ!!」
「な、何よ!怒る事ないでしょ!わかったわよ、帰るわよ!!」
これ以上は近くに居ると危険だ。
だからそそくさと飛行機に向かって歩き出した。
しかし、飛行機まで辿り着くと再びベジータを振り返った。
「食事!足りない時は遠慮しないで言いなさいよねぇ!何でも好きな物用意してあげるから!でも恐竜はダメよ!!絶滅危惧種だから数が多くないの!だからあんまり殺しちゃいけないの」
伝えたいことを伝えて飛行機に乗り込んだ。
ベジータはまだこちらを見ている。
しかし、アイツが謝るなんて予想外だった。
もしかしたら相変わらず突っ張っているけれど彼にも少しは人間らしい所があるのかもしれない。
そう思うと笑みが溢れた。
そのままベジータに手を降って飛行機を発進させる。

そう、アイツにもきっとある筈だ。人の心が。
うちに来た異星人は間違い無く犯罪者だけど、いつかは改心できるかもしれない。
可能性は限りなく低いけれど…
少しだけ信じてみるのも良いかもと思った。